庶民が住んでいる裏長屋の路地の幅は約2mほどで、道幅が広いとはいえなかった。
そんな道を雨が降る日に傘を差して歩くとき、
忘れてはならないしぐさが 「傘かしげ」 である。
傘をさしてすれ違う場合、互いに傘を外側に傾けるのである。
すれ違う相手の反対側へ傾ける、このしぐさを 「傘かしげ」 という。
傘かしげをする理由はふたつあり、
ひとつは、すれ違う際、相手に雨水がかからないようにという配慮、
もうひとつは、当時の傘は唐傘(番傘、蛇の目傘)という
竹の骨組みに油紙を貼ったものだから、
ぶつけて穴を開けてしまわないようにとうものである。
傘をかしげる余裕もない道幅の場合は、互いに傘をすぼめてすれ違った。
その場合も、相手の傘にぶつからないよう、
雨水がかからないようにする配慮は当然であった。
いずれも譲り合いの精神、思いやりの精神から生まれたしぐさだ。
当時、傘は高級品だったので
庶民の雨具としては蓑傘や合羽のほうがポピュラーだったが、
合羽も買えない庶民は、蓑を巻いて歩いていた。
また、履物も貴重品で、
雨が降ってきたら濡れないように懐にしまうことも多かったという。
雨の日の江戸のを描いた絵を見ると、よく裸足の人がいるのはこのためである。
狭い道で肩引き・蟹歩きをしないマナーの悪い人たちでも
さすがに雨の日は傘かしげをする人は多い。
雨の日のマナーをわきまえているのか?
それとも傘がぶつかって滴が飛び散って自分が濡れるのが嫌だからなのか?
道では傘かしげをしても、電車の中での傘の扱いのマナーの悪い人は結構見かける。
座席に座ったときに両足の間に傘を立てれば良いものを
体の左右どちらかの座席に寄りかからせるようにしている光景をよく見る。
座席のシートが濡れるし、なにより他の人が座れるスペースを潰してしまっている。
混み合って立っているときでも自分の体の前ではなく、体の横に傘を立て、
他の人の足に傘が触れていても平然としているのがいる。
ちょっとした気づかい、気配りがあれば、お互いに嫌な思いをしなくても済むのに。