居心地の良い社会の基本は、他人に失礼な振る舞いをしないことが第一の要点です。
たくさんの人が溢れる江戸では、無礼な振る舞いを極力避けることが求められました。
とくに無礼で非礼な行為として、人の目の前を横切ることがあげられ、
これは 「横切りしぐさ」 といって、やってはいけないしぐさです。
例えば、芝居小屋などで大勢の人が座っている場所で、
座っている人の面前を当たり前のように横切るのは無礼な振る舞いです。
そんなときは、右手を出し、「前を失礼します」 という意志表示をするのが江戸でのエチケット。
「すみません、前を失礼します」 と言葉に出さずとも、
このしぐさをすることで座っている人との意志の疎通が図られ、いざこざが起こらずに済むのです。
現代でこれが見られるのは、大相撲の力士が検査役の前を横切るときで
力士は必ず手を前に差し出しています。
江戸時代、とくに大名行列など身分の高い人の前を横切ることは、
手打ちにされても文句が言えない無礼な振る舞いでした。
唯一の例外は、出産のために産婆が通る場合だけだったとされています。
日本文化の象徴的な人への「配慮」「気づかい」 を、
みんなが身に付ければ平穏な社会になるはずなのだけど、
悲しいかな、「自分さえ良ければそれで良い」 という
自己中心的な志向の持ち主が増えてしまった現代です。