初対面の第一印象が、その後のお付き合いを左右することがある。
だから同じ江戸に住む者にとって、
最初に会うときは自分を飾らず、謙虚にありのままの姿を見せるように努めた。
これが「お目見えしぐさ」で、
最初から本当の自分を知ってもらおうという江戸人の正直な態度だった。
本当の自分を知ってもらうのが一番で、
偽った自分で飾ると、その後の付き合いや商売で何かと障害になるもの。
まっとうな付き合いが江戸人の心情だったのだ。
出会いが「お目見えしぐさ」なら、別れるときは「後引きしぐさ」を心掛けた。
これは、もう一度あなたに会いたい、もう一度この店に来てみたい、
もう一度この品物を買い求めたいというお客に対する心づかいである。
江戸に住む者は何かしら商売をしていたから、
店ならまた来てもらう、職人ならまた仕事をもらうという
相手に与える心地良い余韻、確かな仕事をすることが大事だった。
これらのしぐさが、店を発展させたり、注文を多く取れる職人となる基本だった。
人気のある店は、「お目見えしぐさ」や「後引きしぐさ」がしっかりしていた。
ファミレスやファストフード店などチェーン店に行くと
マニュアル化された画一的な挨拶をされるが、私はこれが気に入らない。
心をこめて歓迎しているとは、まったく思えないし、感じないのだ。
ひと口に客といっても相手によって接し方は自ずと違ったものになるはず。
一見さんにも常連さんにも同じ接客は、あり得ないし、
若い客と年配の客でも接客の仕方は変わってくるはずである。
それをさせている企業側にも問題はあるが、
接客態度に首を傾げたくなる店員は少なくないから、
そうさせたほうが無難と考えているのかもしれない。
「お客様は神様」ではないが、「ありがとうございます」の気持ちがあれば、
接客態度は自然とそれなりのものになるはずである。