江戸の町を勢い良く駆け回って商売をしていたのが魚屋だ。
天秤棒の両端に桶を下げ、仕入れたばかりの新鮮な魚を庶民に供給した。
天秤棒を振って売り歩くことから、彼らは「棒手振り」「振り売り」と呼ばれていた。
そんな彼らにもしぐさがあった。
魚を買ってもらうと、その場でさばくのも仕事だったのだが、
なるべく幼児、子供たちの目に入らない場所で包丁を使ったのである。
包丁は、魚屋にとって切っても切れない道具だが、
使い方を誤ると怪我をしたり、下手をすれば凶器にもなる。
そこで魚屋は、危険な道具としての包丁を子供たちに見せないように使った。
江戸では、子供たちは大人の様子を観察し、真似をして遊んでいた。
少しでも危険なことは、ある程度歳がいってから覚えれば良いことで、
凶器にもなってしまう包丁は、幼児や子供には見せないようにしたのだ。
このような魚屋のしぐさを「魚屋しぐさ」と呼んだのである。
日持ちしない魚や野菜などは、陸揚げと同時に売りさばかれる。
このため魚や野菜が陸揚げされる河岸は市場として大変賑わった。
もともとは佃島の漁師が幕府に納めた残りの魚を
戸板に並べて往来で販売していたのが、魚河岸の始まりといわれている。
大人の真似をしたがるのが子供。
とくに危険なもの、危険なことに強く興味を示す。
というのは今も昔も変わっていない。
それだけに大人は行動に十分配慮しなければならない。
それを疎かにしているから危ないこと、やってはならないことの
判別がつかない子供が増えてしまったり、
そのまま大人になってしまって、
人としてあってはならない事件を起こしてしまうのだ。
子供には見せないほうが良いものもあるのだ。
そしてそのようなことを成長に合わせ、段階を踏んで教えていくのが教育だ。
幼児期の家庭における躾、教育が、その子の将来の人間性を決めてしまう。
そう思って子供を育ててもらいたい。