【シャル・ウイ・ダンス?】 の周防監督の久しぶりの作品。
周防監督は拘置所に実際に入ったことのある人や、裁判で被告人となったことのある人達から
事細かく取材、情報収集し、本物同様のセットを作って撮影に入った。
話のあらすじは、満員電車で痴漢に間違えられ逮捕されてしまった青年の無実を晴らす戦いという
ありふれたものだが、警察の陰湿で一方的な取調べ、拘置所での犯罪者扱い、国選弁護人の冷たい対応、
検察の揚足を取る尋問などTVドラマで観るよりも現実味があり、
逮捕から判決が出るまでの経緯、冤罪立証の難しさを実に上手く描いている。
映画の中で印象的な言葉がいくつかあり、思わず 「なるほどなあ、そういうことか」と頷かされた。
裁判所は犯罪者を裁くのではなく、有罪か無罪かを判決するところ |
裁判官も権力に弱い |
取調べ、送検するのは警察、送検された事件を立証するのは検察・・・・どちらも国家権力者だ。
裁判所が扱う事件のほとんどが被告の自認事件で当然有罪となるものが多く、
実際は刑をどの程度にするのかを決めるだけのことが多い。
しかし、これを闇雲に無罪にしたり、減刑すると裁判官は国家権力を敵に回したことと同じになってしまう。
さらにその事件が控訴されて二審で逆転判決が出たりすると
証言者は証言の言葉ひとつ使い間違えると、それを逆手に取って突っ込まれてしまうので恐い。
また裁判官の心象でグレーが白寄りになったり、黒寄りになったりしてしまうのも恐い。
被告人が嘘の証言をすることもある。
原告人が嘘の証言をすることもある。
証人が嘘の証言をすることもある。
裁判官は何が本当で、何が嘘なのか、冷静に見極めなければならない。
TVドラマ同様、弁護士と検察官のやりとりも見所だが、
逮捕されてから判決が出るまでの経緯が現実に限りなく近いものがあって参考になる。
こんなことがあるのだったら逮捕されるような事件は起こしたくないと改めて思わされる。
しかし、冤罪は現実に起こる。
物語は被告人の主人公と弁護士、友人が力を併せ無実の立証をするが、
被害者の女子中学生の証言が大きく取り入れられ、主人公は実刑を受けてしまうことになる。
冤罪立証の難しさをつくづく思い知らされる。
被告の犯罪が立証されたのなら被害者のためにも厳しい判決を出してもらいたいが、
冤罪で人生を棒に振ってしまうことは十分に考えられ、絶対に冤罪はあってはならない。
警察の慎重かつ十分な取調べが求められる。
裁判物なので映像の美しさは無いけど、まもなく始まる裁判員制度のためにもすごく参考になる映画です。