駕籠(かご)は、江戸でも高級な乗り物で、
現代のタクシーのように誰かれなく乗れるものではなかった。
医者や大店の主人、ある程度お金を持っている隠居など、
利用する人は限られていた。
それだけに、江戸で商売を始めた者にとっては、
「いつかは駕籠を使って・・・・」
と、駕籠に乗れる身分を夢見たのである。
だから、駕籠に乗っているというだけで、
その店の勢いが推し量られたりした。
だからといって、駕籠に乗れるほど出世した者は、それを誇示しなかった。
駕籠に乗って訪問するときは、訪問先の玄関まで駕籠をつけることをしない。
その少し手前で駕籠を降り、歩いて訪問したのである。
「どうだ、オレは駕籠でやって来た!」
と力をひけらかさないのだ。
このしぐさを『駕籠止めしぐさ』という。
あくまでも控えめに、相手に敬意をもって接していた
江戸商人の振る舞い方のひとつである。
駕籠にもいくつか種類があり、
とくに上級な物を「乗り物」といい、木製で漆塗りの引き戸付きである。
町人が利用した駕籠は、
竹と畳表で作られた四つ手駕籠と呼ばれるもっとも簡易なものであった。
これが時代劇でよく見る一般的な駕籠である。
駕籠の料金はいくらくらいかというと、かなりアバウトなところがあり、
担ぎ手との交渉で料金が決まることも多かった。
現在の感覚でいうと、およそ四文で百円ほどなので2万円の高価な乗り物であった。
(現在のタクシーだと2000円くらいで行けるはず)
多くの町人は、自分の足を頼りに江戸市内を行き来するしかなかったのである。
江戸の市中は、現在の山の手線内よりも広かったので、
徒歩での移動には、かなり苦労したであろうことが想像できる。